Bridging Strategy and Reality

"現場に息づくテクノロジーを。経営の想いと現場の声、その間をつなぐ存在として。"

#4:IT導入よりも先にすべきこと ― 問題と向き合い、最適解を導くということ

2025.6.11|早瀬 亘

専門家ではないことに、意味がある

コンサルタントという仕事は、ときにとても説明の難しい仕事です。
自分自身が直接的に利益を生むわけではなく、成果が見えにくいことも多い。
ましてや、何か一つの「専門」を掲げているわけでもないとなれば、その価値を伝えるのは一層むずかしくなります。

でも私は、「何かの専門家ではない」ということに、むしろ大きな意味があると感じています。
なぜなら、特定の手段や技術に縛られず、目の前の課題をゼロベースで捉え直すことこそが、問題解決の出発点だと信じているからです。

今回ご紹介するのは、私が過去に関わったプロジェクトの中で、まさに「手段が目的化しそうになっていた場面」で、本質に立ち返ることで、より良い解決策を導けたときのエピソードです。

この事例を通して、私たちコンサルタントの関わり方や価値が、少しでも身近に、そして具体的に伝わればうれしく思います。

「このボタン、必要ですか?」

ある不動産デベロッパーのお客さまで、システム運用支援をしていたときのこと。
コールセンターの担当者から、こんな要望が届きました。

「契約者とのコミュニケーション履歴を管理するシステム(以下「コミュニケーション履歴システム」)から営業管理システムへの遷移ボタンを追加してほしい」
業務上、過去の営業履歴を参照する場面が多く、画面遷移が煩わしいというものでした。

しかし、この要望にはいくつか技術的なハードルがありました。
コミュニケーション履歴システム側から営業管理システムの画面を開くだけでなく、該当のお客さまの情報をログイン状態で呼び出して表示するには、APIの開発や認証処理の検討が不可欠でした。
さらに、コミュニケーション履歴システムが「契約番号」で管理しているのに対し、営業管理システムは「お客さま番号」で管理していたため、番号を突き合わせるための中間テーブルの設計やDB構造の見直しも必要になりそうでした。

一見シンプルに見える改修も、裏側ではシステム構造や運用設計に深く関わるものであり、相応のコストと影響範囲を伴うものでした。

「本当に困っているのは、どこですか?」

わたしは、要望をそのまま受け取るのではなく、現場の方々に丁寧にヒアリングを行いました。

すると、核心は「ボタンがないこと」ではなく、
「通話中にウィンドウを切り替えると混乱する」
「画面操作に気を取られると、お客様とのやりとりに集中できない」
という心理的・認知的な負荷にありました。

つまり、“やりにくさ”の正体は、UIの仕様ではなく、作業環境と使い方にあったのです。

解決策は、コードではなく構造理解と視点の切り替え

私は、以下のようなアプローチをとりました。

結果、業務効率は改善し、オペレーターの満足度も向上。
コストをかけずに、現場の課題を解消することができました。

この解決は、単なる“気づき”や“ひらめき”ではなく、要望の背景を探り、システム全体と業務の関係性を読み解いたうえで導いた結論でした。

ITに詳しいだけでは足りない。課題に向き合えるかどうか

この経験から改めて強く感じたことがあります。
それは、「要望に応えること」と「課題を解決すること」はまったく別物だということ。

私は「ITを導入すること」に特化した業者ではありません。
むしろ、ITを組織に“実装”する専門家として、業務や現場の文脈に根差しながら、最適な打ち手を設計・提案する立場にあると考えています。

そのためには、技術やツールを知っているだけでなく、以下のような力が求められます:

領域は絞らない。だからこそ、真に課題に向き合える

私は「Web制作専門」「クラウド導入専門」といったラベルをあえて掲げていません。
それは、どの領域に属するかではなく、目の前の課題をどうすれば最も本質的に解決できるかを第一に考えたいからです。

もちろん、特定の領域に絞った方が、ビジネスとしては分かりやすく、お客さまにとっても探しやすいのかもしれません。
でも私は、“問題解決の専門家”として、あらゆる課題にゼロベースで向き合い、最適な手段を組み立てる存在でありたいと思っています。

課題に必要なら、ITを使えばいい。使わなくてもよいなら、それも一つの正解。
重要なのは、「どの技術を使うか」ではなく、「どうすれば本当に困っている状態を解消できるか」です。

だから私は、「ITと現場のあいだに立ち、組織に実装する専門家」であると同時に、領域横断の“問題解決者”でありたいと考えています。

あとがき

派手な技術ではなく、ささやかな一手が、現場を大きく変えることがあります。
課題の本質を見極め、無理のない形で、最適な方法を探っていく。
その積み重ねこそが、信頼されるパートナーとしての価値だと信じています。