Bridging Strategy and Reality

"現場に息づくテクノロジーを。経営の想いと現場の声、その間をつなぐ存在として。"

#2:中小企業こそDXを―変化を恐れず、最初の一歩を踏み出すために―

2025.6.7|早瀬 亘

DXとは何か?—言葉の由来と広まり—

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は、もともと2000年代にアカデミックな文脈で生まれた概念です。
企業活動において本格的に注目されるようになったのは、2010年代以降。
特に日本では、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で、“2025年の崖”という表現とともに、既存のレガシーシステムからの脱却と変革の必要性が強く提起されたことが契機となりました。
DXは単なるIT導入や業務効率化ではなく、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化そのものを変革することを指します。

中小企業にとってDXが「遠い言葉」に聞こえてしまう理由

とはいえ「ビジネスモデルを変革する」と言われると、多くの中小企業経営者にとっては、自社の実情からはかけ離れた大きな話に聞こえるかもしれません。
現場でまず行われがちな“帳票の電子化”や“Excel化”は、確かに業務効率化に寄与しますが、それ自体が目的化してしまうと、「何のためにやっているのか」が曖昧になり、手段が目的を飲み込んでしまう状態に陥りがちです。
しかし、たとえば「将来的に検査業務を自動化したい」「属人化している知見をデータ化して社員教育に活かしたい」といった事業の方向性や成長戦略が明確であれば、それに向けて「どのデータをどう取得し、どのように分析するか」といった打ち手の意味が定まってきます。
こうした思考の枠組みこそが、まさにDXの出発点です。

実は相性がいい?中小企業とDX

ここで注目したいのは、DXは中小企業にこそ相性がいいという点です。
大企業では、意思決定に多くの承認が必要で、変革のスピードが遅くなりがちです。
一方、中小企業では、経営者が直接判断し、現場との距離も近いため、小さく始めて効果を実感しながら改善を重ねる“スモールスタート”が非常に機能しやすいのです。
また、DXのような取り組みは、組織全体の文化や働き方にも影響します。
中小企業であればその変化が組織に浸透しやすく、取り組みの成果が見えやすいという強みもあります。
実際、中小企業白書などでも、「意思決定の早さ」「PDCAの迅速さ」「成功体験の積み上げやすさ」は中小企業のDX推進における利点として強調されています。

小さく始めて、大きく育てる:経営視点で見直すDXの可能性

例えば、京都の繊維業では、AIによる画像解析を用いて反物の不良検出を自動化し、検品作業にかかる時間を約80%削減した例があります。
また、静岡の金属加工業では、工作機械に振動センサーを設置し、異常振動を検知して部品交換を事前に知らせる仕組みを構築。これにより突発的な機械停止を回避し、稼働率が大きく向上しました。
こうした事例は、一見すると「自社には関係なさそう」と感じられるかもしれません。
しかし、どれも「現場の困りごとをデジタルで解決できないか?」という経営の問いから出発している点が共通しています。つまり、DXは壮大な構想から始める必要はなく、日々の課題解決から始めてよいのです。

手段ではなく目的から:DXの本質とは

DXを考える際に最も重要なのは、「このツールを使いたいから導入する」のではなく、「どういう会社でありたいか、どう事業を育てたいか」というビジョンに基づいて手段を選ぶことです。
たとえば、「地域のお客様との関係性を強化したい」「社員の属人的なノウハウを組織全体で活用したい」といった経営の想いが起点にあるからこそ、「じゃあ業務データを可視化してナレッジを蓄積しよう」といったデジタル化の取り組みに意味が宿ります。

最初の一歩は、誰にとっても不安なものだから

どれほど効果が見込めるとしても、DXは変化を伴うものです。そして、最初の一歩には不安がつきものです。
しかし、小さな取り組みであっても、明確な意図と継続的な実行があれば、DXは確実に企業の体質を強くしていきます。
わたしは、単なるツールの導入に留まらず、経営者の皆さまの想いに寄り添いながら、“一緒に考え、伴走するパートナー”として、DXの最初の一歩から支援したいと考えています。

中小企業の挑戦が、地域社会を変えていく。
デジタルは手段であり、中心にあるのは「人」と「志」です。
わたしは、その歩みにおいて信頼のおけるパートナーとして伴走させていただきます。